世界の陸上選手のエピソードにふれられる「MOWA」って知ってる?
9月に開催された世界陸上の期間中、東京都庁ではワールドアスレティックス・ミュージアム(MOWA:Museum of World Athletics)による陸上の展示会が実施されていました。今回は展示会場を訪れ、その内容をレポートするとともに、ディレクターのクリス・ターナーさんにインタビュー。MOWAに込められた思いについて、聞くことができました。
今回の取材メンバー
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ほだか -
なつき -
そうや -
りさ -
たかけん -
あやね
お話を聞いたのは…?
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クリス・ターナーさん ワールドアスレティックス・ミュージアム ディレクター/国際陸上競技連盟(世界陸連)のスポーツライター及び歴史家として35年間以上のキャリアを持ち、世界陸連でウェブ編集から広報副部長まで、さまざまなメディア関連の役職を歴任。2018年にMOWA部門創設時に初代ディレクターに就任し、2021年にMOWAを設立した。
訪れたのは…?
ワールドアスレティックス・ミュージアム(略称MOWA:東京都庁)
陸上競技の歴史を旅するオンライン3Dバーチャル博物館。世界陸上の開催時期にその都市で展示会を開催するなど、世界各国でリアルな展示も実施。2025年7月7日から9月21日まで、東京都庁で「TOKYO1991-2025」をテーマに、80人以上のアスリートのメダルやウエア、シューズ、競技用具などが展示された。
MOWAのオープニングセレモニーを取材
取材に訪れたのは、MOWAのオープニングセレモニー。会場である都庁第一本庁舎2階北側展示スペースで報道発表会が行われました。セレモニーには、東京都を代表して小池百合子都知事が出席し、1991年東京大会にも出場した有森裕子さん、2004年オリンピック女子マラソン金メダリストの野口みずきさん、1991年東京大会の男子マラソンで金メダルを獲得した谷口浩美さん、今回男子マラソンに出場する小山直城選手、東京2025世界陸上財団の尾縣貢会長が来賓として招かれていました。
今回の展示のテーマは「TOKYO1991-2025」。セレモニーでは2つの大会の金・銀・銅メダルが一般公開されることが発表されました。さらに1991年大会の男子マラソンのアーカイブ映像も流され、谷口浩美さんが金メダルを獲得した様子を一同で見守ることに。2025年東京大会の期待感を高めるセレモニーとなっていました。
MOWAディレクターのクリスさんにインタビュー
MOWAはどのような目的で設立されましたか?
貴重な展示品とともに陸上の歴史を広めるためです。
クリス: MOWAは2018年に世界陸連のセバスチャン・コー会長(2度のオリンピック金メダリスト)が「陸上競技の歴史をみんなに広めたい」と言ったことからスタートしています。
世界中のアスリートからユニフォームやシューズを寄贈してもらうかたちをとってMOWAができました。現在は陸上競技の歴史を知るインターネット上の3Dバーチャル博物館としてオープンしているほか、今回のように世界各国で展示を開いています。
なぜ世界をまわっているのか、その理由がよくわかりました!
これまでどんな場所で展示会をされてきましたか?
ショッピングモールで展示をしたこともあります!
クリス: 世界陸上をはじめとした陸上選手権を中心に展示会を開催しています。例えば、2023年の世界陸上ではブダペストで5カ月間開催し、5万人が来場しました。来年3月にはポーランドで世界室内陸上競技選手権に合わせて展示します。ただしそれだけではなく、スポーツに興味がない人にも届けるため、ショッピングモールや文化センターで展示会を開催したこともあります。
ショッピングモールで陸上の展示をするのは色々な人が関心を持てそう!
展示テーマ「TOKYO1991-2025」とは?
今回のMOWAのテーマ「TOKYO1991-2025」はどのようなものですか?
陸上の伝統を持つ東京に対してお祝いの気持ちを込めています!
クリス: 東京は陸上というスポーツにおいて深い伝統を持っています。今回のコンセプトは1991年と2025年の東京開催の世界陸上のお祝いです。MOWAとしては開催都市とつながりを持ちたいという思いがあります。日本のアスリートから寄贈を求めており、高橋尚子さんからはシドニーオリンピックのゼッケンを、有森裕子さんからはバルセロナオリンピックで使ったシューズを寄贈いただきました。1991年に開催された世界陸上の男子マラソン金メダリストの谷口浩美選手も紹介したかったので、等身大パネルが展示されています。
各国の選手の協力があって実現しているんですね!
クリスさんにとって
思い入れのある展示はどれですか?
ウサイン・ボルトとジェシー・オーエンスの展示に
注目してください。
クリス: ウサイン・ボルトから2011年世界陸上韓国・大邱大会のときに寄贈されたユニフォームです。大邱大会で彼を案内したこともありますし、一緒にフィルムを作っていたので。でも全体としてどれが重要かといえば、偉大な選手ジェシー・オーエンスのユニフォームでしょう。彼は1935年の大会で45分の間に走り幅跳びなどで3つの世界記録を達成しました。それだけでなく、ベルリンオリンピックの4種目で金メダルを獲得しています。それらは都庁の45階に展示されています。
ウサイン・ボルトのウエア、見てみたい!
今回、都庁で展示を開催したのはどうしてですか?
展望台には、たくさんの人が訪れるからです。
クリス:
まずは会場を提供してくださった都庁に感謝を申し上げたいと思います。
会場の1つである45階の展望台には1日に約1,000人が訪れると聞きました。それが11週あるわけです。どれくらいの人がここを訪れるかわかりますよね?
展望台で何が行われているかわからない人も来てくれると思います。私たちは東京の人たちに草の根運動をして陸上をしっかり広めていきたいです。
東京って出かければ、刺激的なイベントに出会える街だよね!
クリスさんの東京の印象を教えてください!
東京の街を歩いて、刺身やスナックを楽しみたいですね。
クリス: 私は世界中の都市をまわって60カ国以上を訪れていて、東京にも何度も来ています。ただスタジアムに行って何も観光しないことがよくあります。奥さんには「あの都市どうだった?」と聞かれても「ちょっとわからない」と答えていました。でも、いまはキャリアの終わりも見えているので、街に出てリラックスしてみようと思います。今回は東京を歩き回って刺身やスナックを食べて、雰囲気を楽しんでみる予定です。
東京の街をぜひ楽しんでください!
中高生にはMOWAのどんなところに注目してほしいですか?
現代のテクノロジーが詰まっているところに注目してください。
クリス: もともとこの部門は「Heritage(歴史)」と名づけられていました。マーケティング担当がMuseumと付けたいと言い出したのですが、ちょっと古くさいと感じました。でも略称が「MOWA」になると聞いて、(ニューヨーク近代美術館の略称である)「MoMA」みたいでいいなと思ったんです。
実際にすぐれた現代のテクノロジーを持った3Dのオンラインミュージアムです。東京の展示会でもバーチャルヘッドセットやゴーグルでメタバースを歩き、5つのギャラリーを歩けるようにしています。こうしたオンライン3Dミュージアムは野球やサッカーのようなファンが多いスポーツ団体でも実現していません。そうした取り組みを陸上のHeritage部門がやっているんです。
MOWAの略称にそんな裏話があったとは!
通常のMOWAではどんなユニークなコンテンツを作っているんですか?
展示とともにアスリートのストーリーがわかります。
クリス: 歴史を見せるというと日付や名前だけが載ったドライなものだと思われがちですが、MOWAのオンラインでは、アスリートが金メダルを獲った背景やプライベートな生活を含めた、次のような一人一人のストーリーを載せています。
ジェシー・オーエンス
1935年オハイオ州立大学 ユニフォームを展示
おそらく世界陸上競技コレクションにおいて最も価値のある遺産である。オーエンスは1935年5月25日、ミシガン州アナーバーのフェリーフィールドで開催されたビッグテンカンファレンス大会において、1時間足らずで3つの世界記録を樹立、さらに1つのタイ記録の際に着用したユニフォームである。
オハイオ州立大学代表として出場したオーエンスは、まず100ヤード走を9秒4で走り既存の世界記録に並ぶ。続いて走幅跳で8.13mを跳び、史上初の8m突破を達成。さらに220ヤード走を20秒3、220ヤードハードル走を22秒6で制した。この日のすべての偉業は、多くの評論家によって「スポーツ史上最も偉大な45分間」と称されている。
陸上競技史における彼の地位は翌年、政治的に激動の1936年ベルリンオリンピックで確固たるものとなった。彼は100m、200m、走幅跳、4×100mリレーの4種目で金メダルを獲得したのである。
クリス: ジェシー・オーエンスは人種差別と戦った選手でもあります。このほかにも、母親として初めて金メダルを獲得したファニー・ブランカース=クンや、キッチンで油を浴びて大火傷を負った後に世界陸上で2連覇を果たしたアナ・フィデリア・キロット・モレーなど、展示とともにさまざまな選手のエピソードを紹介しています。また、皆さんのような学生向けには漫画を展示しています。MOWAを訪れて日本の高校生がケニアの選手からインスピレーションをもらうということもあると思います!
おもしろそう!Webサイトも訪れてみたいと思います!!
展示会場で陸上の記録を体感!
2つのMOWAの展示会場を見学
45階の展望室にある展示会場では、ユニフォームやシューズなど選手からの寄贈による、貴重なコレクションやLEDタッチスクリーンに1991年東京大会のハイライト映像が展示されていました。
2階の展示会場では金メダルや砲丸の展示、棒高跳や走高跳の世界記録がわかる展示やアスリートから寄贈されたユニフォームなどがあり、実際に見て触れて体感できる展示がありました。
見て触りたくなる工夫があって楽しい!
誰にとってもおもしろくしようと注力されていた!
2つの展示会場には工夫がたくさんありました。「砲丸にさわりたくなる工夫がされていたり、体験型で物理的な距離がないような状態で見学できる工夫があっておもしろかった(たかけん)」「金メダルの背景にあるストーリーを示すなどおもしろく伝える工夫があったのが印象的でした(あやね)」と展示の手法のおもしろさに気づいたという感想があがりました。
クイズに挑戦 !!
クイズで楽しく振り返ろう!
Q.クリスさんが個人的に一番、思い入れのある展示品はどれ?
*答えは記事の最後に掲載。記事の中にも答えがあるよ!
MOWAの取材を終えて
りさ
MOWAを知って 地域とスポーツの つながりの強さを感じた!
そうや
東京都が スポーツをサポートしていることが よくわかった!
取材メンバーはMOWAの運営費に対する話が印象に残ったよう。「MOWAには、東京都が場所の提供などで関わっていて、結果としておもしろい企画展示になっているのを見て、東京都のサポートが意味のあることなんだとわかりました(そうや)」「なぜMOWAは世界各国をまわっているんだろうと思っていましたが、ドネーション(寄贈)をとおして、関係性を築き上げているのを知って、スポーツと地域のつながりの強さや可能性を感じました(りさ)」と、スポーツと行政の関わりを知ったという感想があがりました。
今後も東京都の公共政策の1つとしてのスポーツイベントに注目したいと思います!
- クイズの答え:
- C. ウサイン・ボルトのユニフォーム
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