TOKYO職人展・田埜昌美さんインタビュー
君にもなれる! 江戸木版画・田埜昌美さんが挑む
伝統工芸の世界とは?
今年で13回目を迎える「TOKYO職人展」は東京の伝統工芸品が展示されているだけでなく、職人にも出会うことができる展示会。今回は「江戸木版画」を作る高橋工房の若手職人・田埜昌美さんと6代目の高橋由貴子さんにインタビュー。職人家系に生まれたわけでない田埜さんがどのように伝統工芸の世界に入っていったのか話を聞きました。
今回の取材メンバー
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ほだか -
まさき -
オイヤン -
そうや -
しずな
お話を聞いたのは…?
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田埜昌美さん 高橋工房で江戸木版画を作る4年目の若手摺師(すりし)。社会人2年目で会社を退職し、職人の道へ。鮮やかな江戸木版画が摺れるよう、日々奮闘している。 -
高橋由貴子さん 江戸の安政年間から160年以上続く、江戸木版画の家系に生まれる。摺りの技術を父に学んだ後、高橋工房の6代目に就任。江戸木版画の文化を広めるため、版元としても活動している。
訪れたのは…?
TOKYO職人展(伝統工芸青山スクエア)
東京の伝統工芸を未来へつなぐ、若手職人による展示会。2025年は13回目となり、8月15日〜28日の会期で実施された。展示販売のほか、若手職人達による実演・製作体験が行われ、職人の技術や作品にふれることができる。
東京都が取り組む伝統工芸Q&A
Q1.東京都はどんなものを伝統工芸品として支援していますか?
A1.「東京の伝統工芸品42品目」を指定しています
東京都では「江戸切子」「江戸木目込人形」「東京籐工芸」「東京手植ブラシ」など42品目を指定して、それらを守る取り組みをおこなっています。42品目についてはこちらのWebサイトをご覧ください。
Q2.次世代に受け継ぐための取り組みはありますか?
A2.なりたい人をマッチングしています
後継者を求めている伝統工芸の職人さんとものづくりをやってみたい人をマッチングさせる事業をやっています。若い世代が伝統工芸の世界に入ると、技術の継承はもちろんSNSの活用など新たな風を吹かせることができます。東京都では伝統工芸の活性化につながる取り組みもやっています。
Q3.伝統工芸品はオンラインでも買えますか?
A3.ECサイトを用意しています!
「小粋屋東京」というECサイトがあります。小粋屋東京は楽天市場に出店しているため、買い物がしやすいと感じられると思います。インスタグラムも開設しているので、ぜひフォローしてください!
江戸木版画・田埜昌美さんにインタビュー
どのような経緯で職人の道に入られましたか?
テレビ番組で摺師のかっこよさに憧れたからです。
田埜さん: テレビ番組で木版画の摺師(すりし)が仕事をしている様子を見て、はじめてこのような仕事があることを知りました。当時は社会人2年目で、別の仕事に就いていました。図画工作は好きでしたが、木版画は未経験。でも、摺っている姿のかっこよさに憧れて、自分もやってみたいと思うように。仕事に就くにはどうしたらよいかを調べたところ、東京都職業能力開発協会の職人塾で東京の伝統工芸の研修生を募集していたので応募し、今に至っています。
その家系に生まれなくても伝統工芸の世界に入れる道があるんですね!
現在の仕事内容を教えてください。
祝儀袋やポチ袋を作っています。
田埜さん: 江戸木版画の摺師を目指してがんばっています。いま、4年目に入りました。浮世絵のような色鮮やかな作品はまだ擦れないので、祝儀袋やポチ袋など、皆さんが普段生活で使うような色数が少ないものを毎日たくさん擦っています。
ステップアップするに連れ、
色数を増やしていくんですね!
江戸木版画とはどのようなものですか?
多色摺りの色鮮やかな木版画をさします。
田埜さん: 多色摺りならではの鮮やかさが特徴の木版画です。たとえば葛飾北斎の大波のような浮世絵も江戸木版画の技術を使っています。私が所属する高橋工房では、版木に山桜という硬い板、和紙はまっさらで上質な越前生漉奉書紙(えちぜんきずきほうしょし)という紙を使って、独自の色調を表現しています。
色鮮やかな木版画は外国人にもウケますよね!
なかなか知られていない江戸木版画の世界とは?
江戸木版画の現場とはどのようなものですか?
摺師、彫師、絵師、版元が分業で活動しています。
田埜さん: 江戸木版画を1つ作るためには、摺師のほかに、彫師(ほりし)、絵師という3人の職人が必要で、それぞれが分業制です。さらにどんな木版画にするかをプロデュースする版元(はんもと)がいます。版元が摺師や彫師、絵師とそれぞれコミュニケーションを取って仕事を進めていくため、摺師と絵師が話し合うことはありません。高橋工房は摺師と版元がいる体制で、私のほかに親方である6代目の高橋と兄弟子の摺師がいます。
絵師と摺師が顔を合わせず
分業でというのは驚きました!
江戸木版画の職人さんは何人くらいいますか?
職人はもはや絶滅危惧種なんです。
高橋さん: 摺師、堀師、絵師の職人は絶滅危惧種だと思ってください。職人のほかに紙屋さん、板屋さん、絵の具屋さん、販売してくださる方で構成された組合がありますが、全員でも40名くらいです。私のように家業を継ぐ職人も、田埜のように新しく入ってくる職人の数もごく限れられています。
40人という少なさに衝撃を受けました。
職人は男性が多いイメージですが、
女性もいるんですか?
彫師は女性のほうが多く、摺師は力がいるので男性のほうが多いです。
女性の摺師として不便を感じたことはありません。
田埜さん: ただ力仕事ではあるので、男性の摺師だと1回でバチッと決まるものを2回で摺ることがあります。手数(てかず)は少ないほうがいいので、そこは練習しているところです。
伝統文化に性別はあまり影響ないんですね!
職人の道に入ると、
どのようなステップを踏みますか?
まずは仕事の向き合い方を覚えてから技術を習得します。
田埜さん: 最初から摺師の仕事をさせてもらえるわけではありません。まずは親方や兄弟子のやり方を見て、片付けを一緒にして仕事場のあり方や姿勢、所作を覚えます。次に紙の揃え方がきちんとできるかといったことをやっていきます。バレンを持つのは入って1年経ってからです。いまも下働きが多く、気遣いを大切にしなさいとよく言われます。
技術より前に伝統文化を学んでもらいます。
高橋さん: 私は江戸木版画の組合の理事もやっていて、若手の職人を集めて歌舞伎やお茶席に連れて行き、他の工芸や文化、美術も体験しましょうと伝えています。伝統工芸の職人になるなら、伝統文化そのものを勉強するのは常識です。なぜお茶席に連れていくかというと、お茶席のなかは全部工芸品だからです。私たちが身につける着物も扇子もそうですし、掛け軸もお釜もお茶碗も。なにか1つでも気付いてくれたらと思っています。版画の技術はやっていれば身に付きますが、それ以前のことを勉強してもらいたいと思っています。
「気遣いを大切に」などの精神面を
先に養う必要があるんですね!
一人前になるまでにはどれくらいかかりますか?
12年以上の実務経験があって伝統工芸士の受験資格が得られます。
高橋さん: 東京都の伝統工芸品とは別に、国が指定した伝統工芸品というのがあります。その道に入って12年以上の実務経験があると、国の伝統工芸士の受験資格が得られ、合格すると伝統工芸士となれます。やはりこの道で一人前というには10年以上はかかることになります。
入口に立つまで12年とはきびしい世界です。
江戸木版画の色とりどりの未来へ向けて
実際に伝統工芸品を作っている時の
魅力ややりがいは?
子供達に江戸木版画を伝えられるのがうれしいですね。
田埜さん: まだ作品と呼べるものを作れていませんが、 TOKYO職人展のようなイベントやワークショップ、 小学校や中学校に出前授業というかたちで、 他の職人さんたちと訪問することがあります。そういう時に木版画を実際に体験してもらって楽しんでもらえたり、江戸木版画というものがあるんだということを知ってもらえたりするとうれしいですね。
人に知ってもらえることが
やりがいにつながっているんですね!
今後の目標を教えてください!
鮮やかな多色摺りの作品を作れるようになりたいです!
田埜さん: まだ3色や5色の木版画を摺っている段階なので、これから色数が多いものを作れるようにがんばりたいと思います。江戸木版画らしい鮮やかな多色摺りの作品を作っていくのが目標です。
田埜さんの色鮮やかな作品を楽しみにしています!
伝統工芸品はどのように楽しめばいいですか?
まずはたくさん見てふれてください!
高橋さん: 伝統工芸品はなにも特別なものではなくて、普段使えるお茶碗や箸もその1つです。ただし高価なので、すぐに買わなくてもいいんです。いまはしっかりいいものを見ておいてください。そうすると目が肥えてきます。そして働きはじめたときに1つ買ってみてください。全部買わなきゃと思う必要はありません。次にボーナスが出たときにまた1つ買い足せばいいんです。身の回りにあれば、それを使う楽しみが出てきます。そういうふうに時間をかけて親しんでみてください。
伝統工芸の道に進みたいと思う中高生へ
メッセージをお願いします。
興味があればぜひ体験してみてください!
田埜さん: イベントでこういう質問が出るとうれしいなと思います。実際にやってもらったりするとさらに楽しさもわかってもらえるかなと思うので、少しでも気になるものがあったら見てみたり、体験してみたりしてほしいです!
江戸木版画、ぜひ体験したいです。
取材メンバー・そうやが木版画に挑戦!
うまく摺れて感動しました!
クイズに挑戦 !!
クイズで楽しく振り返ろう!
Q.田埜昌美さんが伝統工芸の道に入ったきっかけはどれですか?
*答えは記事の最後に掲載。記事の中にも答えがあるよ!
江戸木版画・田埜昌美さんと高橋由貴子さんのインタビューを終えて
そうや
伝統工芸は廃れることなく 活気ある次の時代へ
ほだか
鑑賞や体験などを通して 身近なものであると まずは感じてほしい
2人のインタビューで伝統工芸が身近なものであることを知ると同時に、担い手不足であることに危機感を感じ、「進路選択として有意義であることを中高生に伝え、活気をもって次の時代に進んでほしい(そうや)」「まずふれてみて、学校の調べ学習でどのような歴史や作り方なのか知ってほしい(ほだか)」と中高生に知ってもらうこと、調べてみるアクションを起こしてほしいという意見があがりました。まずはECサイトをチェックしてみてください!
- クイズの答え:
- C. 東京都職業能力開発協会の職人塾の研修生に申し込んだから