マラソン銀メダリスト有森裕子さんに聞く!夢を叶えるために才能は必要ですか?
東京2025世界陸上では、トップアスリートたちが多くの感動を届けてくれました。
私たちは開催に先立って、1991年の世界陸上東京大会で活躍したレジェンドアスリートの有森裕子さんにインタビュー。
有森さんのアスリート人生や陸上の楽しみ方について話を聞くなかで、中高生が気になる「夢を叶えるのに才能は必要か?」という質問をぶつけてみました!
今回の取材メンバー
-
まさき -
オイヤン -
こうしん -
りっせん -
しずな -
のんのん
お話を聞いたのは…?
-
有森裕子さん 1966年、岡山県生まれ。1990年の大阪国際女子マラソンで当時の初マラソン日本女子最高記録を樹立。その後、バルセロナオリンピックで銀メダル、アトランタオリンピックで銅メダルと、2大会連続でメダルを獲得。2025年に日本陸上競技連盟の会長に就任し、東京2025世界陸上を盛り上げた。
自分の走りで感動を与える立場になりたい
有森さんが陸上をはじめたきっかけは何ですか?
小学校の恩師から
誰もが素晴らしい体を持っていると教わったからです。
有森さん: 私は元々両足の股関節が外れて生まれています。小学校の頃も運動が苦手な子供で、途中まで手芸クラブでした。でも、陸上クラブの先生に「体をふくめて自分の持っているものは、とても素晴らしいんだよ」と教わったんです。実際に一生懸命やるとみんなから応援される。それが力になって何かできるようになることが大好きになりました。そういうエネルギーをもたらしてくれたのが私にとって陸上でした。
意外です! 才能があって、すごいきっかけがあるのかと思っていました。
私自身は遅咲きの選手。
活躍しはじめたのは実業団に入ったあとです。
では、マラソン選手になろうと思ったきっかけはなんでしたか?
笑顔でゴールする選手を見て、感動してもらえるような人になりたいと思ったからです。
有森さん: ポルトガルにロザ・モタという選手がいます。小柄で顔も小さくてかわいいので、“ポルトガルのバラ”と呼ばれていました。私が大学4年のときにソウルオリンピックがあって、マラソンをテレビ観戦していたんです。マラソンって、苦しそうに走るので悲壮感がありますよね?でも彼女は満面の笑みで走りながら、1着でゴールテープを切ったんです。その姿に心を打たれて「私も人に感動してもらえる場に立ちたい」と思って「オリンピックに出られたらいいな」という夢を描くようになりました。
気持ちの強さは才能を超える
そんな中でも才能がないと諦める人もいます。有森さんは才能って必要だと思いますか?
才能は自分でつくりだせるんです!
有森さん: 私は身体能力の才能は本当になくて、実業団(リクルート)に入った後も、体は硬い、ベタベタ走る、腰は落ちてる、首は前に出てる……中学生よりも遅いと言われてきたんです。でも、実業団時代の師匠・小出義雄監督に「人には体の才能と心(気持ち)の才能、2つの大切な才能があって、有森は体の才能はないけど、気持ちの素質だけは世界一。だから諦めるな」と言われたんです。
その日から監督に出されたメニューをとにかくやる毎日。当然、人より速く走れないから遅くまでやって。でもそうやって続けていると、自信がついて能力になっていくんです。つまり、才能なんていうのはあとからついてくるし、自分でつくりだせます。才能がないと諦めたら、何も生まれません。
有森裕子さんの経歴と戦績
| 1989年 | 日本体育大学卒業 株式会社リクルート入社 |
|---|---|
| 1990年 | 大阪国際女子マラソン 6位(初マラソン日本女子最高記録) |
| 1991年 | 世界陸上東京大会 4位 |
| 1992年 | バルセロナ五輪 2位(銀メダル) |
| 1996年 | アトランタ五輪 3位(銅メダル) |
| 1999年 | ボストンマラソン 3位 |
マラソン自己ベスト記録 2時間26分39秒
その努力があって初マラソンで日本記録をつくられたんですね!
はい、気持ちを継続して一日一日の努力をできるかどうかが大事です。
有森さん: 才能のあるなしなんて考えないほうがいいですよ。本当になにもしないでできる人なんていないと思います。大事なのは自分がどうしたいか、そのための努力を当たり前にできるか。気持ちの才能は、体の才能を超せるんです。
世界陸上はアスリートが高みを目指す舞台
有森さんにとって世界陸上が初の日本代表戦だったそうです。どんな大会でしたか?
世界に羽ばたくきっかけになった大会です。
有森さん: 1991年の世界陸上東京大会は、自国開催だったこともあり、期待が高く緊張しました。結果として、この大会で4位を取れたことがバルセロナオリンピックの代表選出につながったんです。つまり、当時の私に世界に羽ばたくきっかけをつくってくれた大会でした。
世界陸上で思い出に残る
エピソードを教えてください。
世界で戦う選手との大切なつながりを感じました!
有森さん: 憧れのロザ・モタ選手とは大阪国際女子マラソンでお会いできて、世界陸上でも一緒になりました。彼女は途中棄権してしまったんですけど、私の走りを沿道から応援してくれていたんです。そんな彼女の姿を見て、世界で戦う選手は敵というより同志。お互いを高め合える存在だと教えてもらいました。実際、戦いが終わると選手同志でハグをして、勝った選手に「おめでとう」と言います。世界陸上はスポーツをとおして人間同志の大切なつながりができる、そんな世界観を知れた大会でした。
世界陸上には人間ドラマがあふれている!
陸上選手にとって、世界陸上はどんな大会ですか?
ここで勝てば世界一と思える大会です。
有森さん: オリンピックは平和の祭典としてたくさんの国や地域の選手が出場できる大会です。それに対して世界陸上は、出場するのに参加標準記録を突破することなどが条件になっています。なので、記録を持った本当に強い選手だけが出場して世界一を競います。まさに陸上のトップ・オブ・トップの戦い。ここで勝てば世界一と思える大会ですね。
陸上競技の楽しみ方を教えてください。
人間の体の可能性に着目してみてください!
有森さん: 陸上ってシンプルに手と足を使って競技しているんです。アスリートがそれをきわめると、こんなに速く足が動くんだ、こんなに重いものを遠くに飛ばせるんだ、こんなに高く飛ぶんだというのを感じられるはずです。人間の体にはこれだけの可能性があるんだというアスリートの限界を超えるがんばりを見てみてください。
実際に競技場やテレビでは、どんなところに注目したらいいですか?
その日その時に、強い選手をじっくり観察するとおもしろいですよ。
有森さん: 日本の選手だけを応援するのではなく、周りのすべてのがんばっている選手に注目してみてください。大会では、強い選手が勝つんじゃなくて、その日強い選手が勝ちます。どんなにすごい記録を持っていても、1年前の記録はその日には関係ありません。大どんでん返しがあるのが陸上のおもしろさ。だから、その日の選手をじっくり見てほしいです。走る前の表情、しぐさ、走り方、投げ方……見れば見るほどおもしろいので、ぜひ楽しんでください。
陸上を見て中高生には何を感じてほしいですか?
陸上に人間の生き様が現れています!
有森さん: すごく期待されていた選手がフライングして失格になることもあるのがスポーツです。でも、その選手が次の日には切り替えて違う種目でがんばっていたりすると、人間の生き様を見ることになります。人生のなかでも、生きていたらいろんなことが起こります。アスリートは人間の真理を、陸上をとおしてやっている人たち。そういうところを中高生のみんなも感じて皆さんの日々の生き方に活かしてほしいと思います。
世界で戦ってきた有森さんらしい、貴重なお話をありがとうございました!
クイズに挑戦 !!
クイズで楽しく振り返ろう!
Q.有森裕子さんがマラソン選手を目指すきっかけになった憧れの選手は誰でしょう?
*答えは記事の最後に掲載。記事の中にも答えがあるよ!
有森裕子さんのインタビューを終えて
まさき
気持ちを強く持って、 努力していきたい!
しずな
いろんなスポーツで 選手の表情に注目したい!
選手として活躍する前の話や陸上観戦の新たな視点を聞けた有森さんのインタビューに対して
「才能だけじゃなく、気持ちが大事というのがものすごく刺さりました。気持ちを強く持って、努力していきたいです!(まさき)」
「その日がんばっている選手を見てほしいというのに納得。これから陸上以外のスポーツでも、選手がどうがんばっているのかに注目したいです(しずな)」との感想が。
自分たちの将来を模索する中高生にとって、アスリートの夢を実現する力をグッと身近に感じたインタビューとなりました。
- クイズの答え:
- C. ロザ・モタ選手