TOKYO職人展・上川善嗣さんインタビュー
東京銀器・上川善嗣さんに聞く!
伝統工芸を守るための工夫とは?
今年で13回目を迎える「TOKYO職人展」は東京の伝統工芸品が展示されているだけでなく、職人にも出会うことができる展示会。今回は「東京銀器」を製造する銀師(しろがねし)の上川善嗣さんにインタビュー。32年という職人歴を持つ上川さんがどんな思いで伝統工芸品を作り続けているのか話を聞きました。
今回の取材メンバー
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ほだか -
まさき -
オイヤン -
そうや -
しずな
お話を聞いたのは…?
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上川善嗣さん 江戸時代から続く伝統工芸「銀器」を製造する家系に長男として生まれた12代目。大手貴金属メーカーに入社し、24時間稼働する工場での勤務のほか、総務や人事も経験。退社後、家業である銀師の道に。「用の美」を追求し、東京銀器を製造している。
訪れたのは…?
TOKYO職人展(伝統工芸青山スクエア)
東京の伝統工芸を未来へつなぐ、若手職人による展示会。2025年は13回目となり、8月15日〜28日の会期で実施された。展示販売のほか、若手職人達による実演・製作体験が行われ、職人の技術や作品にふれることができる。
東京都が取り組む伝統工芸の支援とは?
東京都では、伝統工芸品42品目を指定し、その保存と発展のために次のような取り組みで支援しています。
伝統工芸に対する3つの支援
1. 伝統工芸品の商品開発を支援
「東京手仕事」プロジェクトという取組でデザイナー等と一緒に伝統工芸品の新商品の開発を支援。開発した商品は商品発表会を行い3つの賞を選出。開発した商品は、国内外の展示会出展や百貨店催事などにより普及促進支援を実施している。
2. イベントや催事への出展
東京の伝統工芸品をTOKYO職人展のほか、東京丸の内のKITTEや日本橋高島屋でイベントや催事に出展。直接、見て購入できる機会を提供している。
3. ECサイトでの販売
東京都が推進する伝統工芸品をオンラインショップ「小粋屋東京」で販売。小粋屋東京はインスタグラムも開設している。
東京銀器・上川善嗣さんにインタビュー
上川さんの仕事内容を教えてください。
銀を打ち伸ばす銀師という職人です。
上川さん: 東京都の伝統工芸品42品目のうちの1つ「東京銀器」を作っています。私はそのなかでも銀師(しろがねし)という名前の職人です。江戸の元禄時代に職業を分類した文献があり、そこで鍛金(たんきん)加工をしていたのが私たちの親方に当たります。鍛金加工とは、金属を鍛える手法で金銀を打ち伸ばす仕事です。
当時は江戸幕府から命じられて鎧兜(よろいかぶと)やお茶道具を作っていました。銀は打ち伸ばすと分子構造が変わって丈夫で長持ちする性質があり、それを現代に受け継いでいるのが銀師です。私自身は、この仕事を始めて32年になります。
江戸時代からの歴史があることに驚きました!
東京銀器ならではの銀の魅力は何ですか?
純度の高い銀を最高レベルで使っています。
上川さん: 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会でリサイクルの銀メダルが使用されていたように、銀はエコロジーな素材です。一度溶かせば違うものが作れるので、ずっと使い続けられる特徴があります。また、銀は最も可視光線反射率が高い金属です。つまり、周りの光によって一番きれいに反射する金属といえます。
銀の素材である銀板は銀の割合が48%のものからありますが、東京銀器では92.5%以上の銀板を使うルールがあります。世界的には銀を92.5%使ったスターリングシルバーが良質とされていますが、東京銀器ではそれ以上のものを使っているため、品位が高くなります。つまり、東京銀器の伝統工芸品は、ものすごくきれいで丈夫で長持ちするのが特徴です。
素材の性質や特徴まで理解して
ものづくりをされているんですね!
一人前になるまでには
どのくらいの期間がかかりますか?
10年で初めて職人の入口に立ったといえます。
上川さん: 私の見解になりますが、志を持って10年続けてやっと職人の入口に立てたといえます。技術的なところに特化すればもっと早く習得することはできます。でも、伝統工芸品は技術だけではダメ。今の時代背景を読む力、心意気、いろいろな方々とのご縁があって、経験できるものを備えて一人前といえるんですね。そこを超えると、また新しい世界が見えてきます。
見る目を養うために相当な
下積みが必要なんですね!
仕事をする上で大切にしていることはありますか?
心技体を鍛錬して伝統の技を守っています。
上川さん: 伝統の技を守っていくためには、心技体が大切だと思います。心と体と技のどれか1つ欠けてもパフォーマンスは発揮できません。伝統工芸品は機械で量産して大量に作るものではなく、人間が作るもの。風合いは変えずに作る人の個性が出るようにするには心技体のバランスが整っていなくてはなりません。基本的なところでは、お道具を整理整頓してからはじめることが大切です。すると間違いも少なくなるし効率よくできる部分もあります。
機械だとボタン1つで同じように作れますが、人間の場合は、ちょっと疲れたかなとかいろんな感情が入るので、同じマインドになるように自分で鍛錬して訓練する必要があります。
日頃から心も体も鍛えていないといけないとは!
東京銀器を身近な「用の美」としてふれてほしい
伝統工芸品を守る上での課題はありますか?
次世代に伝えるために新しいツールを使っています。
上川さん: 後継者問題など、課題はさまざまありますが、社会情勢が変わるなかで次世代の皆さんに伝えるべきことを伝えることが必要だと思っています。「不易(ふえき)流行」という言葉がありまして、変わらない本質を大切にしながら、時代に沿って見せ方を変える必要があるという意味です。
伝統工芸品を見たときに「値段が高いね」というご意見が先ほどありました。その理由として、二次元バーコードを読んで作っている映像を見られるようにしたら「なるほど」となりますよね。新しいツールを使って、未来を担う次世代の中高生に伝えていくということも考えています。これまでクラウドファンディングやTikTokを利用したこともあります。そうやって時代ごとに見せ方を変える取り組みをしています。
文化を担う伝統工芸品には
大きな可能性があると思います!
中高生には伝統工芸のどんなところに注目してほしいですか?
生活の中で使ってみて用の美にふれてください。
上川さん: まずはふれてもらった後、実際に使っていただきたいですね。「用の美」という言葉があります。実用的で美しいということで、機能美という言葉に似ています。伝統工芸品は美術品ではないので、生活のなかでお道具として使ってみて、そこに伝統美があるというのを実感してほしいと思います。銀器のリングでも江戸切子のグラスでもいいので、まずふれて使っていただきたいですね!
使っていて風情を感じることができるんですね!
TOKYO職人展で、お気に入りを見つけてみたいと思います!
TOKYO職人展をぐるりと見学
展示中、作っている映像が流れていたので工程もわかりました!
上川さん: 上川さんのインタビュー後は、一人一人自由にTOKYO職人展を見学しました。館内には伝統工芸品が展示販売されているだけでなく、直接職人と話せるブースもあります。伝統工芸品の美しさの理由や工程を聞くこともできたため、伝統工芸品に興味のある今回の取材メンバーはゆっくり見学を満喫しました。
クイズに挑戦 !!
クイズで楽しく振り返ろう!
Q.東京の伝統工芸品を1つ探してみてください!
*答えは記事の最後に掲載。
東京銀器・上川善嗣さんのインタビューを終えて
まさき
伝統工芸品は 日常にあって使うもの
しずな
ものづくりに興味がある人に 訪れてほしい
TOKYO職人展で上川さんの話を聞いて「伝統工芸品は家に置いて飾るものから実際に使うものだと認識するようになりました。箸や包丁など実際は僕たちの日常に溢れていることにも気づきます(まさき)」「今はデジタルツールで作品が作れる時代。でも、ものづくりには伝統工芸品という選択もあるということを知ってほしい(しずな)」と伝統工芸品を身近に感じたという感想があがりました。
東京の伝統工芸を知ると、日常や将来に新しい発見があるのかもしれません!
- クイズの答え:
- C. 江戸刺繍